ただしこれらの独創的かつ先鋭的な構造も、古色蒼然としたHARLEY-DAVIDSONのエンジンの存在感にかすみがち。
 それほどHARLEY-DAVIDSONのエンジンが個性的であったことも確かです。
 古めかしいイコールつまらない、とは限らない好例とでも言いましょうか…
 どうこう言っても単車も内燃機関ですから、その魅力を決めるときに、存在感のあるエンジンは決定打。
 984ccで92馬力のOHVエンジン、その心臓が叩き出す、路面を蹴り出すような鼓動感は素晴らしいものでした。

 と、こんなBuellに大きなサイドバッグを担がせ、タンク(XB9の場合はエアクリーナー・カバー)の上にはタンクバッグを乗せて、「コイツとなら、どこでも行ける」という気持ちを胸に、いろいろなところへ旅をしました。
 Buellで何といっても思い出深いのは、ツーリング。
 それも、「冒険している!」という手応えを感じるツーリングでした。
 ツーリングレポートに詳しく記させていただきましたが、危なそうな絶景スポットで停車をして、撮影を楽しんだものです。
 いま思い返してみて、どこが一番絶景だったとか、どこが一番怖かったということはなく、みんな素晴らしい体験でした。
 でも、Buellに乗っていて本当に良かったなぁ…と実感した場所は、2009年に訪れた信州の毛無峠がいちばんです。
 Buellは前輪ブレーキも特徴的で、ディスクローターをリムに沿って配置するリムオン・ディスク構造となっています。
 これならば制動力をタイアの近いところでかけるため、その分ホイールを頑丈にしなくてもいいということで、ホイールは驚くほど軽く、ご覧のとおりスポークも肉が薄い。
 ただしX・Elevenの素晴らしい制動力を知った身体には、感銘するほどのレベルではなくて、ごく普通の効き具合。


 後輪の出力伝達は、ふつうの単車は
金属チェーンが使われますが、HARLE
Y-DAVIDSONと同じ樹脂製のベルトが
使われています。
 金属チェーンは、保守が面倒なものです。
 汚れた油を定期的に洗い落とし、新しい油を補給しなければなりません。
 手は汚れるし、身体をかがめての作業に腰は痛いしで、米国人が手を汚してしかめ面をする、深夜TVのテレフォンショッピングを思い起こします。
 「貴方もこんな経験ありますよね?」というセリフが流れるアレです。
 この点、この樹脂ベルトはメインテナンスフリーで、油汚れとも無縁。
 無精者にはたいへん有難い。
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 これが信州の毛無峠です。
 標高は1,823m。
 毛無峠に至る道は、山の稜線を巡ってゆく、狭い道。
 簡易舗装で、ガードレールもなく、崖にはポールが刺してあるだけ。
 眺望の素晴らしさは、ご覧のとおりですが、その反面、ひとつ間違えば崖からまっさかさま。
 でも、こういうところでも、Buellは小柄なために気軽に降り乗りができます。
 そして小柄なくせに、こんなに遠くまで旅ができる、余裕の排気量。
 そんな魅力に、あらためて感嘆したものです。
 また小柄なことは、旅先でも思いつくままに停車して、気が変われば、いとわずにUターンすることもできます。
 結果として見聞も広がって、いつも旅自体を愉しむことができました。