せっかく印刷したはずの地図を自宅に忘れてきたために、加賀井温泉を見つけるのにてこずった。
農家と住宅が混在する一帯で、あっちをうろうろ、こっちをうろうろ。
路上で地元の人に尋ねてみたが、逃げ出したプードルをつかまえていたお嬢さんは「一陽館?知らないわ」、飼い主のおばあちゃんの道案内は説明が分からなくて、道路工事のおっちゃんにいたっては「僕は土地の者ではないんでねー」と。
20分くらい走り回った末に、やっとたどり着いた。
場所は住宅街の突き当りで、山が立ち上がるところ。
建物は旅館というより、古ぼけた寄宿舎といった趣。
軒下には、今や骨董品の「でんわ・でんぽう」の陶器の丸看板が吊るしてある。
ここは温泉マニアには知られた、源泉かけ流し温泉だ。
「加賀井温泉・一陽館」 入浴料 ¥400-
長野県長野市松代町東条55 0262-78-2016
下調べどおり、70代くらいのご主人が現れて、入浴上の注意をしてくれる。
ご主人から撮影を許可されたのもこのアングルだけ。
ご興味のある御仁は、インターネットで驚異的な?浴槽の画像を見てください。
源泉槽の蓋を開けて、なかを見せてくれる。
ボコボコと源泉が湧く。
手を入れると42度くらい。
泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物温泉だが、炭酸成分が多いのでサイダーを注いだような泡立ちだ。
母屋とつながった湯屋に男女別の内湯と、その裏庭に2つの露天風呂があり、内湯と露天とは源泉が違う。
また内湯から露天風呂に移動するには、素っ裸で庭を歩くしかない。
どの浴槽も成分で茶色くなり、炭酸カルシウムが固まった析出物で浴槽全体が丸くなり、また地面は棚田状に変化している。
湯屋に入ると内湯は細長い長方形で、手前から奥に向かって源泉が流れを作っている。
お湯は濃い緑色をしていて、温度は熱め。
肌あたりは柔らかだが、効能がじんわり入ってくる感じがたまらない。
さて内湯から露天風呂に移動すると、こちらのお湯はややオレンジがかった鮮やかな黄土色。
2つの浴槽で、適温とぬるめの二種類の温度だ。
こちらも肌あたりは柔らかだが、温泉成分と身体の水分濃度が一致するというか、お湯と身体が溶け合うような恍惚感がある。
露天風呂には、インターネットでも紹介されたことのある、ここの名物おじいさんも来ていた。
このおじいさん仙人のような容姿で、ほぼ毎日2時間近く入浴しておられることで有名。
ということで、ふだんは入浴時間の短い僕も、20分は浸かっていた。
浴槽はオーバーフローさせる水路が析出物の堆積で面白い姿になっていて、そこを流れる温泉を見ていると飽きない。
さて内湯に戻ってみると僕一人だったので、もう一度じっくりと内湯を楽しむ。
薄暗く煤けた湯屋の小窓から青空を見上げながら、お湯と同化する至福のひととき。
風呂あがりも優しい温浴感が持続する。
また肌がさらさらで気持ちいい。
ご主人の講釈では、炭酸カルシウムで肌の表皮が乳化するために、さらさらになるそうだ。
(左)側溝を覗くと、オーバーフローしてきた源泉が、側溝も黄土色に染めていた。
家族連れや清潔好きには向きませんが、温泉をじっくり味わいたい御仁にはたまらない名湯。
お湯自体が魅力的なので、このお湯に馴染んでしまうと、普通の温泉に戻れない危険なものさえ感じます。
確かに温泉マニア向けかもしれない。
いずれにせよ、苦労して来た甲斐がある温泉だった。