

北海道新聞夕刊 毎週水曜日掲載
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D0511・0611−00002060
三田村 秀雄 著
突然死 心臓の電気系トラブル
電気の怖さについては、昔の人間より現代人の方が理解しやすいかも知れない。
いくら文明の進んだ都市に住んでいても、いったん停電に陥ると街は真っ暗になり、
エレベーターも止まってしまう。いくらエンジンが素晴らしい車に乗っていても、
いったんバッテリーがあがると、うんともすんとも動いてくれなくなる。
いくら高性能のコンピューターを使っていても、いったんフリーズすると、命の次に
大事なデータが失われてしまう。
そうなると、命だって電気の故障で失う事がある、といわれても驚かないかも
知れない。
健康な心臓には発電所の役割をする細胞があり、そこから電気が規則的
発生して一秒間に1メートル以上の速さで心臓をかけめぐる。
電気が通過した部分から順番に筋肉が収縮していき、一回の電気の発生が
一回の心臓収縮に、そしてそれが脈一つ分につながるのである。
しかしいくら強い心臓でも、この電気系統に異変が生じると、それだけで
心臓が収縮しなくなることがある。発電所が故障した場合には電気が発生
しなくなり、従って収縮もしなくなる。電気がちゃんと発生しても、電線に問題があって
伝わらない場合にも心臓は収縮しなくなる。どちらの場合も心臓の停電である。
電気の故障は停電だけとは限らない。心臓では電気がいろいろな方向に流れて、秩序がとれなくなることが
ある。すると心臓のいろいろな部分がバラバラに収縮や拡張を起こすので、統一のとれたリズミカルな血液の
拍出が行えなくなる。心臓は細かく震えるように動くのに、血液が全身に向かって流れていかないので、やはり
心停止であることに変わりはない。
そしてこの心室細動と呼ばれる電気系の故障が、突然死の最も多い原因なのである。
突然死は瞬時に起こる。一秒前まで、全く規則正しく収縮していた心臓が、あっという間に止まってしまうので
ある。血圧が下がり、脳にも血液がまわらなくなるので、文字通り「あっ」という声を出して助けを呼ぶ事も出来ない。意識を失い、呼吸も止まり、やがて死を迎える。
心臓は必ずしもエンジンが弱った末に止まるとは限らない。元気な心臓でも電気の故障が起こるだけで心停止に陥るのである。ただエンジンの故障と異なり、電気系統の故障の場合には、ちょっと手を加えるだけで修理
できることが多い。一瞬の間に心臓が止まるが、一瞬の間にまた元に戻る、それが可能なのである。
停電を直すように、突然死を救えるのである。