「要するにスーパーの圧力に負けたんだな。彼らの言葉で言えば『消費者ニーズ』というやつだ。海には時化(しけ)もあるし、ましてやカキむきは機械じゃできない手作業だ。それでも彼らは大量購入で単価を下げ、何が何でも毎日店頭に1トンのカキをそろえろと迫ってくる。『お客さまのニーズにお応えできない』と言ってくる」
「安さ」が基準
「消費者ニーズ」。その言葉が一人歩きし、地方の生産現場を呪縛のように覆っている。カキだけではない。そもそも、スーパーの店頭に同じ大きさ、同じ色の野菜や果物が季節を問わず、しかも格安の値段で並んでいることを「消費者」の側も何の疑問もなく受け入れてはいないだろうか。農産物流通コンサルタントの山本謙治さん(38)は「モノの値段は本来、生産価格に流通価格などを上乗せして決まっていくものなのに、バブル崩壊後は小売り側に権限が移るようになった。デフレ不況で物価が下がり、消費者も『なぜ100円で買えないの』となってしまう。魚介類や農産物でさえも同じように思ってしまう」。
では、「消費者ニーズ」の実態とは何か。熊本大学の徳野貞雄教授と財団法人福岡アジア都市研究所が市民1000人に消費者のタイプをアンケートしたところ、「安全なものなら多少高くても買う」という「積極型消費者」はわずか5%。「おいしければ満足」という「無関心型」は23%で、最も多い52%を占めたのが「安全性には注意しているが、特別なことはしていない」という「分裂型」だった。山本さんは「口ではきれいごとを言いながら、実際は安いモノしか買わない。結果的に、POS(販売時点情報管理)データを重視するスーパーにとって、安値が最大の『消費者ニーズ』となる」。