青空が、私の頭上を支配している。薄い雲がひとつ、ふたつ、ほとんど形を変えないで右から左へ流れる。ゆっくりと。
 私は何をするでもなく、公園のベンチでボーッとその様子を眺めていた。後ろにある噴水のせせらぎが、ほどよいBGMとなっている。

 今日は平日だけど、会社は休んだ。
 体の具合が悪いとか、何か用事があったとか、そんなんじゃない。ましてや怠けグセがあるわけでもない。むしろ、仕事に対しては真面目なほうだと思う。ただ単純に、とにかく会社を休みたかったのだ。

 今日だけは。そう、今日だけは。



 6年前の今日、ゆーくんが死んだ。突然だった。

 なぜ?なぜ? 分からなかった。分かったことは、彼が自ら命を絶ったことと、最後の電話の相手が私だったこと。
 私は後悔した。どうして気付いてあげられなかったのか。もしあの時彼の異変に気付いていたら、助けてあげることができたかもしれないのに…。少なくとも最悪の選択はさせなかっただろう、たとえ微力であっても。


 私がゆーくんの後を追ったりしないかと、仲間たちは気が気じゃなかったようだ。特に彼の葬儀が終わった時、私の憔悴のし方は半端じゃなかったらしい。自分ではまったく覚えていない。その時のことは、全然。
 しばらくの間は、誰かしら必ず私と一緒にいた。そのおかげかどうか、私は何とか立ち直ることができた。

 少しずつ、月日を重ね。少しずつ、過去にかえて。


 けれど、毎年この日だけは、ひとりでゆーくんとの想い出にひたりたいんだ。



 「どうしてゆーくんは彼女をつくらないの?」

 いつだったか、彼に聞いたことがあった。
 ゆーくんはカッコいい。メンクイの私が惚れるくらいだから、それは間違いない。なのに、誰かと付き合っているとかいう話は一切耳にしたことがなかった。
 ゆーくんは、その質問には答えてくれなかった。「さぁ?」と、ただ曖昧な微笑みを浮かべただけだった。

 「しょーがないな。じゃあ、私が彼女になってあげるよ!」
 冗談めかして、でも9割方本気で、私は言ったのに。
 「ヤだよ。オマエと付き合ったりしたら、毎日怒られっぱなしになっちゃうじゃん」

 おどけた口調でアッサリと言われてしまった。ショックだった…けど、そこで傷ついた顔をしたら、居心地のいい今の状態もダメになってしまうような気がして。
 「ひっどぉい!そーゆうコト言うから怒るんだよーっ!!」
って、いつもみたいにふくれて。そのまま、何事もなかったかのように。



 …でも、もしかしたら。

 あの時すでに、彼は自分の人生を決めてしまっていたのだろうか? だから、はぐらかされてしまったのだろうか?





 「…ねぇ、教えてよ。ゆーくん、私のことどう思っていたの……?」



 誰も答えてはくれない。答えてくれる人はもういない。


 確かなことはひとつ。
 ゆーくんは、私が今まで生きてきた中で一番好きになった人。そして、彼以上に好きになれる人は多分現れないだろう。

 …多分? ううん、きっと……いや、絶対に。



 私は立ち上がり、歩き出した。ゆーくんの好きだった缶ビールとマイセンを持って、彼が眠る場所へと向かうために。
 また明日から頑張るからと、彼に伝えなくちゃならない。それが唯一私にできることだから。



 空を見上げると、さっきの雲はすでに遠くへと行ってしまっていた。時間というものはあっという間に過ぎてしまう。

 ゆーくんよりひとつ年下だった私は、3ヵ月後には6歳年上になる。


                                                      ― Fin ―