(1)北の大地のダイナミックなモビリティ
 最初の愛機は125cc。
 僕が30代、札幌で職場の独身寮に住んでいた頃ですから1984年頃ですか。
 まずは、すすき野の南、札幌自動車教習所で小型自二免許(125ccまで)を取得。 
 次は愛機の選定です。
 映画「大脱走」のマックイーンが駆るBSAに憧れていたので、ああいうレトロなネイキッドにしても良かったようなものですが、なぜかクルーザー型のHONDA/CBX125・CUSTUMを新車で購入。
 「大脱走」と同じく感化された映画「イージーライダー」が、潜在意識にあったのでしょうか‥。
 少なくとも北海道の北の大地 →長距離クルージング →北海道でクルーザーに乗らずして、どこで乗るっ! という思い入れがあったことは確かです。
 購入した単車屋は、知己に紹介されたオフロードバイクの専門店。 
 ジャンル違いの車種を扱うため定価販売となりましたが、店長が気の毒に思ってか、おまけでライディング・ブーツを付けてくれましたっけ。
 なお話しはわき道にそれますが、映画でマックイーンが駆るBSAは、当時のイギリスの単車です。
 「大脱走」の撮影に使われました。
 このお話しでマックイーン扮するHILTS大尉が逃走に使うのは、ナチス独軍の単車という設定ですから、本当は西独ツュンダップ(のちのVW)を使うのが適切でしょう。
 同じドイツの後継として西独BMWを使うという考え方もありますが、BMWは繊細すぎて戦場では人気がなく、配備も少なかったそうです。
 大戦当時の汎用機といえば、やはりツュンダップです。
 でもいずれにせよ、そこはおおらかなハリウッド映画。
 マックイーンのライディングがかっこよければ、映画では英国BSAでも良いのです。
 さてこのCBX125ですが、残念ながらツュンダップとは違って、良い印象のない単車でした。
 長距離をクルージングする目的とミスマッチだったのがそのエンジンで、125cc単気筒のくせにDOHC、おまけにツインプラグで排気管も2本と、明らかに高回転型の性格。
 低回転だとまったく頼りなく、逆に壊れるくらいに回すとがぜん元気づきます。
 単車雑誌では「時速100kmは軽く出るヤツ」と書かれていましたが、こんな原付に毛の生えたような貧弱なシャシーに、自分の命を任せる度胸もなく。
 北海道・北の大地→手足を伸ばした安楽姿勢でおおらか長距離クルージング‥ というイメージとはほど遠い、前傾気味に身体をかぶせて、アクセルをワイドオープンして、路面のギャップにビクつきながら駆るという哀しい走り方を強いられました。

 またこういう神経質なエンジンですから、空気が薄い高地では、とたんにキャブレターがグズつきます。
 もともと125ccしかありませんので、調子を崩すと出力は50cc以下と思えるほどでした。
 おまけに調子が悪くなったときに限って、「ヒグマ注意!」の看板(吼え顔つき)が道路わきに次々と現れて‥ 
 人っ子ひとりいない原野で、エンジンが止まりそうな時に、あの看板はかなりこたえます。(笑)
 ちなみにこのCBX125、15馬力で車重は124kg、燃料タンクは10L入りましたが、燃費はそれほど良くなく、30km/L 程度でした。
  
 とはいえ単車の魅力をはじめて味わった、思い出深い愛機でもあります。
 そういえば単車に乗らない人に「バイクって、どこが面白いの?」って尋ねられることがあります。
 単車の魅力は、何といっても、独特の浮遊感と駆動感です。
 自転車を漕ぎ出した瞬間の、あのフワリとした、重力から解き放たれた浮遊感。
 あの浮遊感が、停車するまでずーっと続くんですね。
 またアクセルを開けると駆動力が伝わって、ぐんっと風を切るところ、これもまた魅力です。
 自転車と違って、身体を酷使せずとも前に進むのですから。
 この浮遊感と駆動感の気持ちよさを、このCBXから教わりました。

 同時に所有していたロータスセヴン(英国製スポーツカー)と、毎年5ヶ月しかない“走ることのできる季節”を奪い合ったものです。
 なおロータスセヴンは独身寮からは離れた場所に納屋をひとコマ借りて保管していましたが、このCBXのほうは寮の管理人さんが所有する除雪車のわきに保管させてもらっていました。
 除雪車が稼動する季節は、ついでに雪かきをしていただいて、有難かったことを記憶しています。
 雪国らしいエピソードですな。
 北海道を離れて神奈川に戻るときに、売却しました。
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北海道・札幌の独身寮にて。
125ccには珍しく、センタースタンドが標準装備であることが分かる一枚。