(5)米国車Buellは、まるで耕耘機のようなモビリティ
2004年に、次なる愛機Buellがやって来ました。
Buellは米国車で、HARLEY-DAVIDSONのV型二気筒をチューンナップしたエンジンを搭載。
排気量は984ccもありますが、ご覧のとおり小柄で、その車重は乾燥状態で174kgと身軽です。
Buellを扱ったことのない赤髭・市が尾店に無理を言って、距離計2,400kmの2003年型の中古車を探して貰いました。
車歴を聞くと、専門店の試乗車だったという説明。
真偽のほどは定かではありませんが、現車の雰囲気からはそうなのかなとも思われました。
セルスターターをかけると、「バチンッ」という衝撃音とともに、弾けるようにエンジンがかかります。
乗り味は独特です。
HARLEY-DAVIDSONのようで、でもHARLEY-DAVIDSONではない。
エンジンが、トラクターのようにのどかに鼓動しているのに、スピードの乗りはいい。
一方でエンジン回転数もそれなりには伸びるので、ちょっと気合いを入れても不満はありません。
つまりアダージオ(ゆっくり)もプレスト(速く)も大丈夫な奴。
X-Elevenのように、周囲のクルマを一瞬で置き去りにできるほどではありませんが、加速力に不満はありません。
乗り続けるうちに予想外だったのは、Buellはツアラーとしての素質も十分にあります。
低速トルクが豊かなエンジン特性と、車体の低重心とで、乗り手に無用な緊張感を強いることがないのですね。
直進性も、ホイールベースがこんなに短いくせに、大健闘というほど真っ直ぐ走ります。
そのため長距離でもあまり疲れなかった。
そんなBuell・XB9は、天才技術者エリック・ビューエルの独創的な発想が、随所に見られます。
そのいくつかをご紹介すると、まず燃料タンクはアルミニウム製の骨組み(フレーム)です。
このフレームの中が中空になっており、14Lのガソリンを飲み込みます。
ご覧のとおり、左側はともかく右側はその厚みも薄く、この中にガソリンが入っているとは思えないほどです。(ふつうの位置にある樹脂のタンクは、インジェクションに空気を送るボックスです。)
この構造のために、ふつうの単車と逆に、ガソリンが満タンなほど重心が低く安定感があります。
燃費はどんな走り方をしても、あんまり変わらず16km/Lでした。
消音機(マフラー)の位置も特徴的で、エンジンの下に吊り下げられていて、これも低重心に貢献しています。
排気口は、ご覧のとおり横出しスラッシュカット。
日本の規格では、排気管の横出しは難しいはずです。
当時のHARLEY-DAVIDSON JAPANは、よくこのままで日本の車検を通してきたものです。
この魚雷のようなマフラーは、鉄製。
排気音は、音量自体は静かで、ドロドロと柔らかい低音がします。
路肩に停めていると、脈動する排気が、路面の埃をパッパッと巻き上げるのはご愛嬌です。
納車(と、いっても単車の場合は引き取り)の当日。
ご隠居、Pocoさんも立ち会ってくれた、にぎやかな1日でした。
HARLEY-DAVIDSONの潤滑はドライサンプです。
したがってエンジンオイルはトランスミッション・オイルと別系統でタンクを設けなければなりませんが、Buellのその場所は後輪のスイングアームの中です。
このスイングアームも中空で、中にエンジンオイルが収められていて、ここからオイルポンプでエンジン本体にオイルが回されます。
重心を中央にまとめるために、徹底した設計を採っています。
跨ると本当に重心が低く、バランスを崩す心配なし。