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「田沢温泉・有乳湯(うちゆ)」 0268-49-0052
長野県小県郡青木村大字田沢2700 入浴料 ¥200-
 国道をのんびりと登ってゆく。
 勾配がきつくなるあたりで脇道に入ると、田沢温泉に到着。
 この温泉は、鬼女が懐妊して坂田金時(金太郎)を産んだ伝説があるところ。
 でもここは、「田沢温泉に行ってきた」と言うよりも、「有乳湯
(うちゆ)に行った」と言うほうが、相手は解ってくれる。
 それほど共同湯の有乳湯のほうが有名だ。
 有乳湯は子宝を授かり、乳の出が良くなる温泉として、この名がついたという。
 さて田沢温泉じたいは、昔の湯治場の姿をよく残している。
 狭い石畳の両側に、小さな木造温泉旅館が並んでいて、たいへん雰囲気がある。
 その突き当りに有乳湯があった。
 小ぶりできれいな湯殿造り。
 裏手に大きな駐車場があり、そこに駐車する。
 支度をして受付へと歩き出すと、地元のおばちゃんから「こっちこっち、近道の階段があるのよ」と声をかけていただく。
 受付はこれまた威勢のいいおっちゃんで、「ここのお湯の良さは日本一だ、楽しんでくださいよ」と、声がかかります。

 さて浴室に入ると、甘いイオウの香りが迎えてくれた。
 タイル張りの浴槽には、お湯が威勢よく注がれて、縁からあふれて排水口に流されている。
 ゼイタクなほどの、かけ流し。
 石鹸類の備えはない共同湯ですから、持参した石鹸で身体を清めると、いざ浴槽に。
 泉質は単純硫黄泉(アルカリ性低張性温泉)。
 お湯はぬるめで、見えるか見えないかぐらいの細かい泡が、身体につく感覚がある。
 そのせいか、わずかにつるすべ感があります。
 しかし何といっても、この甘い香りが素晴らしい。
 ぼんやりと、恍惚のひとときを過ごす。
 風呂あがりはぽかぽかとした浴感が残り、効能も申し分ない。

 受付のおっちゃんが「お湯、どうでした?」と、今度は遠慮がちに印象を訊ねてきた。
 もちろん、とっても満足でしたよ。
 日本一かどうかは分かりませんが。
 愛機に戻って旅支度をしていると、浴室で見かけたおじさんも、駐車場にやってきました。
 入浴セットのカゴを、軽トラの荷台にぽんと置くと、運転席にひょいと乗り、笑顔で去ってゆきます。
 入れ違いに、別の軽トラが駐車場に入ってきました。
 運転していたおばちゃんは、眼が合うなり「どこから来たの?」と笑顔で話しかけてくれます。
 「横浜から? はぁー、ここを目的に? まさかね(笑)」
 おばちゃんは笑いながら温泉に入ってゆきました。
 ふふふ。
 おばちゃん、その「まさか」かもしれないよ。
 有乳湯は、こんな暖かいふれあいのある温泉でした。 

 このあたりには、有乳湯のほかにも鹿教湯温泉(2007年収録)、別所温泉
(2012年収録)、沓掛温泉と、大人が道草をするのにふさわしい温泉が密集しています。
 タオル片手に、湯巡りしてみるのも面白いかもしれない。

 さて時刻は13:20。
 陽が陰らないうちに、峠を越えてしまうか。
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