「チェーホフ的気分」に出てくるチェーホフ作品
 さてさて、稽古もそろそろ立ち稽古に入りそうな雰囲気です。
 今回はこの芝居に登場するチェーホフ作品をご紹介しようと思います。
<9月10日>
 まず、芝居の中で重要な役割を果たすのが戯曲「かもめ」です。
 チェーホフの四大悲喜劇の第1作目で、1895年の作です。最初この芝居はペテルブルグの劇団で上演されたのですが、客席からの大ブーイングで、惨敗に終わっています。
 当時のロシア演劇界では、チェーホフの静かなリアリスティックな会話劇は、かなり新しく、受け入れられにくかった様で、新聞評でも散々で、チェーホフはかなりショックを受け、芝居が終わった後、1晩失踪し、妹マーシャが必死で探し回ったというエピソードがあります。余程ショックが強かったのか、チェーホフは自宅に戻る時、列車に手荷物を忘れてきてしまう程でした。
チェーホフ
マーシャ
どういうお話かというと・・・
 ある別荘地が舞台。
 有名な女優のアルカージナが、兄、息子トレープレフ(愛称コースチャ)、愛人の著名な小説家トリゴーリンを伴って、領地に避暑に来ています。作家を目指す息子トレープレフは、日頃母から蔑ろにされて、いまだに自立できないでいます。彼は、恋人のニーナという、近隣に住む恵まれない家庭環境で、女優志願の若い娘を主演に、新しい形式の芝居を書いて、皆の前で上演しますが、自分以外が注目されるのを好まない女優気質の母親や、興味を示さない回りの人々のせいで失敗。失意のどん底に。(この辺り、今回の芝居にも関わってきます)それに追い討ちを掛けるように、恋人ニーナは、有名作家のトリゴーリンにのぼせ始めます。トレープレフは自殺未遂。その母アルカージナは、トリゴーリンを自分につなぎとめる為にあの手この手を繰り出し、意思の弱いトリゴーリンは絡め取られて、一緒にモスクワへ引き上げる事に。その際、想いを断ち切れないニーナに、モスクワに来るよう約束をしていきます。
 トリゴーリンの後を追い、女優になる為モスクワへ行ったニーナは、子供を生みますが、赤ん坊は死んでしまいます。トリゴーリンに捨てられ、ドサ回りの女優になったニーナはこっそり生まれ故郷の別荘地に戻ってきます。
一方、作家になったトレープレフは、なかなか自分のスタイルを見つけられず、苦悩する毎日。
 ちょうど数年前のように、母が相変わらず愛人のトリゴーリンと別荘地を訪れています。
トレープレフは、こっそり訪ねて来たニーナと数年ぶりに再会、でもニーナは、もう昔の彼女ではなく、苦労をしたことで、自身の生きる道を見出し、そして今もトリゴーリンを愛している事を打ち明け、去っていきます。
 トレープレフの自殺で幕・・・。
 なぜ「かもめ」かというと、トレープレフが失意の中、自分の気持ちの象徴として1羽のかもめを撃ち落して、ニーナに捧げるのですが、彼女には判って貰えません。その後ニーナは再会した時、今度は自分をそのかもめに例えて、「私はかもめ・・・」と何度も繰り返す・・・それがこのタイトルになっています。
 他に、トレープレフに片思いをし続けるマーシャ、そのマーシャに恋しているさえない教師のメドヴェージェンコなど、恋の話がわんさか盛り込まれています。
 日本でもよく上演される芝居なので、ご覧になった方も多いのでは・・・?
 この「かもめ」のモデルになったのが、リーカ(演じるは米倉紀之子嬢)とチェーホフの恋愛模様です。妹マーシャ(私の役ですね)の友人でチェーホフと知り合ったリーカは、オペラ歌手志望の若い娘で、チェーホフに恋をしますが、肝心のチェーホフは今ひとつ煮え切らない・・・失意のリーカはチェーホフの友人の有名画家レヴィタンと恋仲になり、その後やはり友人の作家で、妻のいるポターペンコとパリに駆け落ち、子供を生みますが、死なれ、ポターペンコに捨てられてしまいます。ね、ニーナにそっくりでしょう?
リーカ
 もう一人アヴィーロワ(演じるは日野由利加さん)という人妻との恋愛エピソードもこの「かもめ」に絡んでくるのですが、それは舞台を見てのお楽しみ・・・。
 ちなみに「かもめ」はその後スタニスラフスキー(演劇関係者には有名な演出家で、演技指導者)とダンチェンコの立ち上げた芸術座で上演され、今度は大成功を収め、チェーホフの劇作家としての地位が確立されました。この時、アルカージナを演じたのが、後にチェーホフの妻になるオリガ・クニッペル(演じるは相沢恵子さん)でした。
アヴィーロフ
オリガ・クニッペル
 他にも、チェーホフの短編がいくつか登場します。
「浮気な女」
 先のリーカと画家レヴィタンとの恋愛沙汰をモデルにしたと噂になり、チェーホフは否定しますが、レヴィタン他何名かの友人ととしばらく絶縁状態になってしまいます。1891年の作品。

「中二階のある家」
 個人的にすごく好きです、私は。1895年の作。最初は「ぼくのいいなずけ」というタイトルでした。

「アリアドナ」
 1895年の作。

「恋について」
 アヴィーロワとの恋が元になった、とアヴィーロワ自身がチェーホフが亡くなった後に発表した手記の中で語っています。1898年の作。

「たわむれ」
 すごくかわいい作品です。(「いたずら」というタイトルになっている場合もあるようです)

「遅れ咲の花々」
 チェーホフ初期の作品。
等です。
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